iTMSスタート、そして必要となる「Place Shift」権
ついに日本でもiTunes MusicStore(iTMS)が始まりました。料金の一本化をあきらめ、米国より若干高めの設定と、以前の予想通りの結末となりましたが、それでも予想の中では最良といえる形でのスタートを切った、といっていいでしょう。
詳しくは月末発売のアサヒパソコン誌で記事にする予定ですが、米アップルのフィル・シラー副社長は、「交渉の経緯は一切コメントできない。だが、結果には満足している」と私に説明しています。
やはり、アーティストと消費者両方に好かれたサービスというのは、幸運なスタートを切れるものです。
よく見ると、日本のiTMSはアルバム単位での販売が中心であり、アルバムでしか買えない曲や、アルバム向けのプレミアムコンテンツが充実しています。100万曲でスタート、とはいいますが、ざっと見た限りでは、アルバムでしか買えない曲が3割以上を占めているようです。
おそらくは、レーベル側が「アルバムという販売形態が破壊されることのリスク」をおそれたためでしょう。
実際にはそんなことは杞憂であり、むしろiMixなどを介した「曲単位で買えるからこそ生まれるバリュー」の方が大きいはず。米国でのiTMSのバリューチェーンは、ゆるいユーザー同士のつながりを介した曲単位でのレコメンドでできている、といってもいいのです。
まだ日本人は本当の音楽配信を知らない、そう言っても過言ではないでしょう。
さて、iTMSが始まるからこそ、避けて通れない問題があります。
先日もふれた私的録音保証金の問題です。
iTMSで買った曲をiPodに転送するのが「私的録音」である、という著作権者側の主張はやはり無理があります。今回の会見でも、スティーブ・ジョブズは「iTMSで買った曲は『所有』できるもの。あなたのものだ」と強調しました。買ったからには、正当に利用する権利はユーザーにある、ということです。それは当然です。
よく言われることですが、私的録音に関する話題がもめる理由の一つは、日本の著作権法上に「フェアユース」規定がないことです。複製権はどこまでも著作権者側に帰属するものであり、個人が利便性を高めるために複製することは、極論すれば著作権者側の「お目こぼし」により認められるにすぎない、というのが日本の著作権法のあり方なのです。
これは明らかに、利用者の権利が軽視されています。
ここで重要なのは、個人に「Place Shift」の権利を認めることではないでしょうか。
テレビを録画し、別の時間に楽しむ「Time Shift」については、著作権者側も会ってしかるべきものであり、排除するに当たらないものであることを認めています。それと同様に、購入したコンテンツを好きな端末/好きな場所で利用する権利が認められれば、問題の多くは解決します。
私的録音・録画のほとんどは、Time ShiftかPlace Shiftを目的としています。残るは、他人に渡すなどの明確な「複製」を伴う行為です。2つのShift権は著作権者への利益還元を伴わず、複製を伴う行為には利益還元が必要、というルールを設けるのが本来の姿ではないでしょうか。
実はこのPlace Shift権という考え方は、新しいものではありません。関係者によれば、国内で最初に私的録音保証金に関する議論が行われた時点で、考慮にあがっていた考え方だといいます。
13年前の法制化の時点で、導入の容易さのみがクローズアップされ、あまりに拙速に結論が下された結果、今に禍根が残っているわけです。
ある権利団体の関係者はこう話します。
「そもそも、楽に徴収するためにメーカー側補填、なんて税金みたいな仕組みにしたのが間違っている。権利範囲を明確にした上で、販売時にレジでチャージする方法にすれば、ユーザーからの反発も少なかったろうし、運用の柔軟性も上がっていたはず。ひどい制度を残してくれたものだから、パッチ当てが大変だ」
この際、指定対象の追加などという「パッチ当て」はやめて、基礎工事からやり直したらいいんじゃないんでしょうか。
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