論点は思ったより単純なんではないか
ダビング10を巡る議論が大変なことになっていますが……。
一応私も意見を述べておこうかと思います。
と、その前に、ちょっと日常の話を。
職業柄という部分もあるのですが、私は本が好きです。フィクションもノンフィクションも、雑誌も学術書もマンガも洋書も写真集も、分け隔てなく愛しています。出版不況で活字はなかなか読んでもらえない事情がありますが、とはいえ、私のレベルの「本好き」は、そんなに珍しい存在ではないでしょう。ひとたび本屋に入ると、「とりあえず一山」という感覚で本を買ってしまいます。
そういうことを続けていると、習慣的に「断る」ことがでてきます。
それは、「書籍カバーと袋をもらわない」ことです。そんなにエコを意識した行動ではないですが、ついていると整理が大変ですし、やっぱりゴミも増える。で、レジでは「袋とカバー、いいです」と答え、鞄に本を詰め込むことになるわけです。
ところが数年前から、レジで「袋とカバー、いいです」と言うと、店員の方に妙な顔、もっといえば「イヤな顔」をされることが増えてきました。
「そんなに変なことかい?」と思っていたわけですが、ある日、その理由がわかりました。
どうしても欲しい本が見つからず、ある新古書店に行きました。なんとか見つけ出し、レジでいつものごとく、「袋とカバー、いいです」と答えます。
するとその店の店員は、驚くようなことを言い出したのです。
「では、出口までついていっていいですか」
理由は、万引き(いや、「窃盗」ですね)との混同防止です。
いうまでもなく、この店員の処置はとても失礼なものです。お金を払った直後のお客を「窃盗犯であろう」と見なす行為なのですから。あきれつつ、袋に入れてもらって店を出たわけですが、その瞬間、怒りはまた別の発想・感情にかわりました。
そこまで店員が言う、ということは、それだけその店で「書籍の窃盗」が多い、ということなのでしょう。
また、多くの店で袋やカバーをつけようとするのも、窃盗との混同を防ぐ目的があったわけです。
いくつかの書店では、最近、袋やカバーを断ると「では、店内ではレシートをお持ちください」と断るようになっています。そういった書店はたいてい、大型かつ構造が複雑で、「会計後に店内に長く滞留される」可能性のある店舗です。これも、決して気持ちのいいものではありませんが、前出の新古書店よりはるかにマシな対応といえます。
これらのことを聞いても、書店に怒りや理不尽さを感じる人はあまりいないでしょう。
理由は、「書籍の窃盗」による被害が、書店に対し大きな痛手であり、深刻な問題であることを知っているからです。
さて、ここで話はダビング10に戻ります。
どうやら、家電メーカー・コンテンツホルダー・ユーザーの間で、かなり感情的なしこりができつつあるようです。
(先日、ある家電メーカーの人物と雑談中も、「ダビング10がチャラになったら、開発にかかった数千万円、誰が保証してくれるんでしょうね」と愚痴をこぼされました)
結局問題は、「強い著作権保護や保証金を導入せねばならないほど、コンテンツホルダーは損失を被っているのか」が理解できない、という点にあるのでしょう。ユーザー側からはもちろん、メーカー側からも、コンテンツホルダー側とそういった状況に関し、十全なコミュニケーションが出来ているとは思えません。
これは前出の書店の例でいえば、「書籍の窃盗」の被害額を知らない状態で、件の新古書店とおなじような対処をされている、という状況になります。
無論、DRMなどないほうがいいに決まっています。
ですが、「本当に被害が深刻」なのならば、我々が受ける利益の分、制約を課せられてもしょうがないでしょう。
それがなく、「まず規制ありき」「民は之に由らしむべし之を知らしむべからず」では、納得できるはずがありません。
きちんと説得する。説得できないなら制約を課さない。
結局論点はこれだけなのです。
もちろん、「制約」が、レシートや袋をもらう程度の「軽いもの」であってほしいのは、いうまでもありません。EPNは、その状況に近い現実解だったのですけれど。
「私的複製」「録画」がコンテンツに与える影響については、また別の側面もあるのですが、ちょっと長くなりそうなので、また次の機会(まあ、数日以内)に。
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コメント
コンテンツ保護のためのダビング規制はあってしかるべきだとは思いますが、地デジに限って言えばクリエイター側への支払い義務を負うのは各テレビ局ではないでしょうか。
事実をまげないこと、意見の対立する問題は多くの角度から論点を明らかにすること等々、放送法すら守れていないテレビ局ですが、それはさておき電波使用料が安すぎるのは各所で指摘される通りです。
それはひとえに公共の情報伝達メディア、文化振興の担い手としての義務を負うからこその特典とも考えられますが、最近は制作費の安いクイズ番組やグルメ、占い、極めつけはTVショッピング枠の拡大とその責務からどんどん離れていくようにも見えます。日本のコンテンツ産業でずば抜けて高い国際競争力を持つアニメ業界からは、逆に金を徴収し放送枠を当てる始末です。
少なくともテレビショッピング枠などからは妥当な電波利用料(オークションで決めれば一番だと思いますが)を徴収し、それを原資にクリエイターへの還元、または振興策をはかるべきではないでしょうか。有限の国の資産である電波を独占し、最大の利益をあげるテレビ局が「我関せず」を決め込み、クリエイターと電機メーカー、消費者が争う構図はおかしいように思います。
投稿者: Saeki (Jul 10, 2008 11:59:13 AM)