リモコンとボタン数
デジタル家電、特にデジタルテレビとビデオレコーダーに寄せられる苦情の中でもメジャーなものの一つが、「ボタンの数が多すぎる」という点です。
ユーザー調査を兼ね、家族や知人などの中でもデジタルモノに強くない人をピックアップして話を聞くと、ほぼ100%、この不満を口にします。
ですが、私は取材の中で、複数のメーカーの家電開発者から、次のような、意外なコメントを耳にしています。
「デジタル家電のリモコンにボタンが増える」原因は、ユーザーからの「わかりにくい」というクレームにあった、と。
ボタンで操作というと、なんとなくマニアックな印象をうけますが、リモコンのボタンを減らすな、とクレームをつけた人の多くはマニアではなく、むしろライトな人々。年齢層も比較的高めで、40代以上であったといいます。理由は「メニュー構造だとわかりにくい」からです。
家電をデジタル化することと、リモコンのボタンが増えることは、本来ダイレクトにつながっていません。それどころか、むしろ逆に減らすことができます。各種機能をメニュー内に配置したり、「モード」によってボタンの機能を変化させたりすることで、機能とボタンを「1対1対応」させる必然性がなくなるからです。
番組選択はもちろん、早送りや巻き戻しといったことも、すべて「十字キー」と「決定キー」の組み合わせで操作可能となります。 すべてを十字キーで操作するわけにはいかなくとも、VHS時代よりもボタンをシンプル化できるのではないか、と彼らも期待したわけです。
ところが、反応は彼らの予想とは大きく異なっていました。
「メニューをたどるのはわかりにくい。機能はボタンに割り当てて欲しい」とのクレームが寄せられたのです。
十字キーでメニューを操作する、ということは、機能がどこにあり、どう操作すればいいかを理解する必要がある、ということです。その大半は単純なものではありますが、それを受け入れられない人も少なくありません。
おそらく、このblogを読んでいるレベルの方には信じられないことでしょうが、DVDを再生して映像でなくDVDメニューが表示されると、「どこを押せば再生できるかわからない」と思う人もいるのです。実は、私の父もそうなのですが。
そういった人々の場合、「メニュー」というもの、そのものが苦手であるようです。たとえリモコンにボタンが増えようと、番組表なら「番組表」、再生なら「再生」、放送切り替えなら「放送切り替え」と、名前のついたボタンを押す方が分かりやすかったのです。だから彼らは、「リモコンにボタンを増やせ」とクレームを入れたわけです。
しかし、ユーザーは「メニュー苦手派」だけではありません。ボタンが多いことに違和感を感じる人が多いのは、冒頭で述べたとおりです。
というわけでメーカー側は、多くの人が不要なボタンをフタやスライドで「隠す」ようにして、クレームを避けるようなデザインを目指したわけです。それが必ずしもうまくいっていないのは、みなさんもご存じの通りです。
と、そんな中で、読んだのが以下の2つの記事。
こどものもうそうblog ソニー銀行「人生通帳」、「ゲーム感覚」とはどういうことか
キャズムを超えろ! Wiiテレビの友チャンネルが家電業界に与えたメガ・ショックとは
どちらも、「メニューによる操作」によるリモコンUIの改善について、非常に示唆に富んだ内容です。
ここで、私が体験した一つの例を示しましょう。
主人公は、私の父です。
すでに述べたように、彼は「メニュー」が苦手です。携帯やパソコンでメールは打てるのに、DVDのメニューやデジタル家電のメニューは「ピンとこない。よくわからない」と言います。どうやら、「ここを押せばこうなる」と決まっているUIはOKでも、ソフトによって「似ているが違うようなメニュー」が出てくるものはイヤだ、という発想であるようです。
そんな彼に、ある機器を見せた時のことです。
「面白い。わかる。これなら使いたい」
彼の口から出たのは、完全な「賛辞」の声でした。
彼に渡して使わせた機器とは、iPhoneです。
ご存じのように、iPhoneはほとんどボタンがなく、操作を究極まで「仮想化」した機器です。ですが彼は、普通の単純なメニューはダメなのに、iPhoneは理解できた。非常に奇妙なことに思えます。
これはあくまで私の予想ですが、なにも「ゆびをすべらせるとスクロール」とか、「広げると拡大」といったジェスチャーに起因するものではないんだろうな、と思います。おそらくは、一つ一つの動作がシンプルな上に、「操作と動作が1対1で対応」していて、「これをやるとどうなるか」が予想しやすいからではないでしょうか。このあたりは、「Wii Sports」が多くの人に受け入れられた理由の本質にも通じるのではないか、と考えています。
同じように「動作」で操作するゲームでも、「はじめてのWii」はさほど理解しやすかったわけではないようですし、iPhoneの操作のうち「再生中のアルバムの中からのぞみの1曲を呼び出す」という行為は、画面の長押し>曲リスト呼び出しという動作がピンとこなかったらしく、かなり戸惑っていました。
しかも、iPhoneやWii Sportsの操作感は、さわっていても「楽しい」。前出のblog記事にもありますが、「さわると楽しそうだ」ということは、操作に対する拒否感を減らす上で、非常に重要なこととなります。
以前、ソニーでXMBを開発チームに話を聞いた時、次のようなキーワードが出てきました。
「UIは、『釣り』と『漁』のバランス」と。
魚を捕るなら、釣りよりも網などを使った「漁」の方が効率的。でも、それだけでは楽しくない。「釣り」は漁と同じことを目的としていながらも、効率より「楽しさ」を重視したものといえます。となると、コンシューマ機器のUIは、効率と楽しさのバランスをとることが重要になるわけです。
(そういう風に考えると、現行のBDレコーダーで採用されている動作の遅いXMBは「釣り」不足で、魅力が足りませんね)
UI開発には、多くの人が想像する以上のコストがかかります。各社の製品を見る限り、まだ数社しか「UIに投資する価値」に気づいていないように見えるのは、少々寂しいことです。
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