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2008.02.22

HD DVD終息で思うこと

本日、拙著美学vs.実利 「チーム久夛良木」対任天堂の総力戦15年史が発売になりました。
本日は多忙で、書店などを確認してはいないのですが、おそらくもう並んでいるのではないか、と思います。
ご一読いただけるとありがたいです。(以上、宣伝モードでした)

さて、今週といえばやはり、東芝のHD DVD「終息」宣言でしょう。
先週末にNHKが報道したことから一気に浮上したように見えますが、実際にはそういうわけではありません。
私が知る限りでも、2月頭あたりには「それを思わせる動き」があった、というのが実情です。

撤退に際し感じるのは、「これで東芝のプレイヤー・レコーダー事業が終わってしまうのはあまりにもったいない」ということです。
これは多くの人に共通する印象でしょう。
あるBD陣営関係者から、次のような言葉を聞いたことがあります。
「そりゃあ、開発思想や技術のあり方では、同意できない部分は多々ありますよ。でも、彼らの気持ちは理解できます。強い思い入れがあって商品作りをしている、という意味では、我々と同じですからね。でも、違う人々もいる。映画や映像が好きでもないのに、勝手なことは言わないで欲しい、と思いますよ」
敵は敵を知る、ではありませんが、現場の人は敵であっても、「現場の思いや苦労」を理解できる、ということでしょう。

そして、「終戦後になにがくるか」は、AV Watchの連載で書かせていただいたわけですが、ちょっとだけここで補足をさせていただきたいと思います。

BDがDVDを超える成功を収められるか? それは正直わかりません。
しかし一つだけいえるのは、「画質的にDVDで十分」というのは、ちょっと早計だろうということです。
SACDがCDを超えられなかったのは、「普通の人が持っている環境では明確な差を打ち出せなかった」から。MP3やAACがCDを超えたのは、「似た音質で遙かに高いユーザービリティをもっていたから」です。(このあたりはみなさん同意されることでしょう)
しかし、DVDとBDの間には、SACDとCD以上の差があります。私はその差が、VHSとLD、LDとDVDより大きなものだと考えています。
アナログ放送が終焉に向かうにつれ、ハイビジョン・テレビ一般的なものになります。そうなれば、ハイビジョン映像の「本当の美しさ・見やすさ」が浸透し、「どうせ買うなら、借りるならBDを」という流れになるだろうと考えられるわけです。

ただし、これは「映像の主たる消費場所がリビングである」という前提に立った場合です。モバイルや自分の部屋での映像消費、すなわち「SD画質で良く、むしろ手軽なことが必要」である場合は、ネット配信やディスクからのマネージド・コピーがメインになるだろうと想定できます。
もし、モバイル系視聴が爆発的に普及するなら、短期的にでも「ディスクからネットへ」の流れが一般的になるでしょう・

とはいうものの、それはちょっと想定しづらいです。
「ながら」が基本である音楽に対し、映像はやはりある程度集中して観るものですから、やはり主たる消費場所はリビングであり続けるでしょう。

これは記事でも書きましたが、「ネット配信がディスクと対立する」と考えるのは違うのではないかな、と思うのです。

むしろ対立があるとすれば、DRMや課金方式にありそうです。
しかもそれは、ディスクメディア以上に機器や使用シーンを縛るでしょう。そうなってしまうと、ディスクの分裂どころではない「イライラ」をユーザーに強いる可能性が高いのが問題です。
アップルが「南風戦略」で勝ったことに学んでくれればいいのですけれど。

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2008.02.16

表記ミスにもほどがある

海外出張に行った時の楽しみは、向こうで売られている映像ソフトを買ってくること。
特に、Blu-ray/HD DVDの世代となってからは、米国と日本のリージョンコードが同じになり、メインの機材で気軽に視聴できるようになったのがありがたいです。

というわけで、今年の1月にも、Blu-rayのソフトを一山ほど買ってきました。

実は今回に関しては、狙っていたソフトがありました。
それは、「ブレードランナー アルティメット・コレクターズ・エディション」です。
ワーナーは、日本でブレードランナーのBD/HD DVD版の発売を予定していたのですが、発売が延期されており、いまだに予定が公表されていません。
ところが米国版はすでに発売済み。
しかも、同梱のファイナルカット版には日本語字幕が入っている!

というわけで、ライター仲間にも、このソフトの購入を「ミッション」と言い切る人も少なくありませんでした。
私も、某店でまずブレードランナーを手に取り、それから、日本未発売のソフトを中心に、めぼしいものを探しはじめました。

と、そこで、目についたソフトが一つ。

それは、「プリズン・ブレイク シーズン1」のBlu-ray版です。
ご存じ大ヒットドラマシリーズですが、日本で発売されているのはDVDのみで、Blu-ray版の話はまったく出ていません。

ふと手にとって、裏面を確認すると思わず心拍数が上がってしまうような表記が!

Pb_back「Audio: Japanese」
なんと、日本語吹き替えも入っている、と書いてあるではありませんか! 同様に日本語字幕の存在も書いてあります。

実は私、吹き替え洋画/ドラマには目がありません。
(だから、テレ東放映の映画はデフォルト予約、です)
プリズン・ブレイクはDVDですでに視聴済みでしたが、吹き替えの出来の良さは記憶に残るものでした。 特に、若本”ティーバッグ”規夫氏の怪演は有名なところでしょう。

値段も、88ドル強。 こりゃあ買わないわけにはいかない! すでに数枚抱えていたディスクに加え、レジに向かったわけです。

……というのが1ヶ月近く前の話。

先日、やっと時間ができたのでプリズン・ブレイクを見よう! とパッケージのシュリンクをとき、BDプレーヤーに入れたのですが……。

あれ?

メニューを見ても、音声のリストに「Japanese」はありません。 もちろん、字幕の方にも。

あわててネットで調べて見ると、なんと米国版プリズン・ブレイクは、発売直前になって日本語音声/字幕の収録が中止になった、とあるではないですか。

おいおい、ならパッケージに記載しないでよorz
まあ、プリズン・ブレイク(特にシーズン1)は好きなドラマなので、それがHD画質で手に入ったことそのものはいいのですが、やっぱりがっくり。
日本ではあり得ないパッケージングのミス、ということで……。

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ご予約多謝いたします

美学vs.実利 「チーム久夛良木」対任天堂の総力戦15年史、予約開始告知以降、好調に予約が集まっているようです。

本ブログ上で告知をした段階では、セールスランキングは確か2万位くらいじゃなかったかと思うのですが、現在は40位台から60位台くらいで推移しています。
講談社側の担当者曰く、書評を含む詳細な書誌情報が公開されていない状態での成績としては異例なものであるようで。

どうやら、いくつかのゲーム系有力ブログでご紹介いただいた結果のようです。紹介していただき、誠にありがとうございます>各位

そしてなにより、ご予約いただいた皆様に感謝、感謝でございます。

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2008.02.14

告知 その2

先日出版物の告知をさせていただきましたが、amazon.co.jpでの予約が始まり、当方にも最終の書影データが届きましたので、ここで公開させていただきます。
(以下のリンクはamazon.co.jpへ飛びます。書名はアフィリエイトあり、書影側はアフェリエイトなしです。バンドがCDを手売りするようなものだと思い、アフィリエイトありをクリックいただけると幸いです)

書名:美学vs.実利 「チーム久夛良木」対任天堂の総力戦15年史
発売元:講談社
定価:本体1800円(税別、2008年2月現在は税込みの場合1890円)
2008年2月21日刊行予定
(amazonの書誌情報では22日発売、となっていますが、講談社側からの当方への情報では21日ですので、そちらを表記させていただきます)


発売されましたら、是非購入をご検討ください。

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「学ぶ事を学ぶ」−OLPCについて

ちょっと前の話になりますが、今年のCESの話を。

今回もっとも興味深かったのは、ビル・ゲイツのラスト・キーノートでも、「ワーナーショック」でもありません。おそらく、日本のメディアは一つも採り上げていない、あるキーノートの内容でした。

そのキーノートの主は、ニコラス・ネグロポンテ氏。

「100ドルPC」と言われる、「One Laptop Per Child」(OLPC)計画の中心人物です。

Eee PCのヒットもあり、低価格PCが脚光を浴びていますが、OLPCとそれらの製品は、狙いが大きく違います。OLPCは、発展途上国の教育水準を上げるためのプロジェクトであり、低価格モバイルガジェットの開発計画ではありません。

(このあたりの詳細については、PCFan誌にて掲載中の連載・「デジモノ語り」の、3/1号[2/15発売]記事にてご説明させていただいています。ご興味があればご一読ください。)

ネグロポンテ氏は、コンピュータを子供たちに与えたい、と考える理由を、 「学ぶことを学ぶため」 と語りました。

その件に関する彼のスピーチが、私に大きな衝撃を与えたわけですが、ここではその中の一節をご紹介しましょう。

ーーーここから

円をコンパスで描く作業と、コンピュータでプログラミングして描く作業。

どちらが学習のためには有用だと思われますか?

答えは、「コンピュータで描く」方です。

コンピュータで描かせるには、「円を描く」という行為がどのようなものか、正確に理解している必要があります。道具の使い方を覚える以上の、論理的な理解が必要なわけです。

それに、もう一つ重要なのは、「最初は正常に動かないだろう」ということです。

きっと、円が半分しか描かれなかったり、途中で実行が止まってしまったりするでしょう。 正常に動くようにするには、プログラムを先頭からたどり、どこに間違いがあったのかを見つけ出す必要があります。この課程で子供たちは、「円を描く」ということが、本当はどういうことなのか、を理解することになるわけです。

それに、正しいスペルを学ぶにも有効です。タイプミスをしたら、動きませんからね。……スペリングは、私もいまだによく間違うんですが。(苦笑)

私たちは、子供たちにグーグル(の検索)を与えたいわけでも、MSオフィスを渡したいわけでもないんです。それらはビジネスなどでは有用ですが、決して教育用、というわけではない。

単に「ネット検索」を与えるのではなく、自分で「学ぶ」環境を用意してあげたいのです。

ーーーここまで

この一節に、私はうなってしまいました。コンピュータと教育に関する本質的な問題が含まれているからです。

ネグロポンテ氏の言う「プログラムで円を描く」というのは、おそらくLOGOのようなプログラミング言語を使うことを想定したもので、BASICのCIRCLE文で一発、という話ではありません。すなわち、「中心から一定距離を保った点の集合」という、円の本質的な定義を理解する、ということに通じています。プログラミングを通じて学ばせたいのは、コンピュータの使い方ではなく「論理的な思考」だからです。

少し前、私は某大手IT企業の採用担当の方を重点的に取材したことがあります。

そこで必ずキーワードとなったのが、「論理的な思考能力」の有無でした。

「大学でITを学んだ人でなくとも、論理的思考能力があれば、戦力としてさほど問題はありません。しかし、ITを学んだ人であっても、それが出来ているとは言い難い」

ある担当者はそう話します。 論理的思考能力を身につけることの難しさは、ちまたに「論理的思考能力」に関するノウハウ本があふれている点からもおわかりでしょう。

他方、教育の現場では現在、コンピュータの授業を行う際にも、専門的な授業でない限り、プログラミングに関する授業はほとんど行われていません。パソコンを利用する上で必須の技術ではないためです。
実際問題、プログラミングを教えたとしても、そこから「論理的思考能力」を学べるようなカリキュラムを作るのは簡単ではないでしょうし。

といったところで、我が身のことに思い至ります。

私は、ちょうど小学校・中学校時代に「マイコンブーム」をくぐり抜けた世代で、小学校時代からプログラミングをしていました。

といっても、まともなソフトを作るようになったのは高校になってからで、小学校の頃は、雑誌に載ったゲームのプログラムを、ゲームやりたさに片っ端から入力する、という感じでしたが。

当時は「西部労働レストラン(save、load、list、runしか使わない人)」などという蔑称があったわけですが、考えてみれば、これも論理的思考の育成には役だっていたのかも知れません。なにしろ一発で動くことなど皆無で、ゲームを楽しむ時間より、デバッグしている時間の方が遙かに長いという代物でしたから。ゲームを買ってもらうのも難しかったですから、プログラムを入力することは、論理的思考能力を身につけるための、実にいい「ニンジン」だったわけです。

私が小学校からパソコンを使っていたことを知っている人は、「IT系のライターになったのもその辺が関係を? やっぱり長く使っていると蓄積が……」といいます。

ですが、私はいつも「あんまり関係ないですよ」と答えてきました。なにしろ、当時のコンピュータと今のIT事情は、天と地ほど違うわけで、蓄積にもならないわけですから。

ですが、このようなエピソードをふまえて考えると、小さい頃に「マイコンブーム」があったことは、あながち意味のないことではなかったかも知れません。

ライターは、取材にも記事執筆にも「論理的思考能力」が必要とされます。仕事をする上でこのような思考法は非常に役に立っています。それを身につける上で、「ゲームやりたさ」がプラスになっていたとすれば、非常に面白いな、と感じます。

ここで時代を今に移します。

現在の小中学生は、おそらくほとんどの場合「プログラミング」などしないでしょう。

これだけ優秀なゲームがあふれていれば、子供が出来る程度のプログラミングでできるゲームは「ニンジン」にならないでしょうし。

彼らに、「論理的思考能力の成果のおもしろさ」を伝える、よい「ニンジン」があればいいのですけれど。もしかするとHTMLでのウェブ構築などが、プログラミングに代わる「論理的思考能力の育成」に役立っているのかも知れません。

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2008.02.07

告知

先日ご連絡いたしましたように、書籍の出版を予定しております。
本日、めでたく(ついに!)校了いたしましたので、書名および内容を公表いたします。

書名:美学vs.実利 「チーム久夛良木」対任天堂の総力戦15年史
(書名のリンクはamazon.co.jpへのリンクです)
発売元:講談社
定価:本体1800円(税別)
2008年2月21日刊行

書名の通り、SCEと久夛良木健氏の15年を総括する本です。
SCEのヨイショ本でもなければ、アンチ本でもありません。
これまでの取材から得た様々なエピソードを通し、「プレイステーションというビジネスはなんだったのか」をまとめたものです。
すでに記事にした内容も含まれていますが、それ以外にも、これまでみなさんが他の記事などで目にしたことのない、(おそらく)初出のエピソードが大量に含まれています。
おそらく、ゲーム業界からでは書けなかった内容でしょうし、自分で言うのもなんですが、他の人には書けない内容になっていると思います。
技術系書籍ではなく、完全な一般ビジネス書として書いておりますので、技術に詳しくない人でも十分に読んでいただけるはずです。
ゲーム業界に興味がある方だけでなく、以下のような方々にお勧めします。

・デジタル家電の現状を知りたい方
・ソニーの内情に興味がある方
・コンピュータ史に興味がある方
・日本の家電業界のあり方に興味がある方
・マスプロダクツのモノ作りに興味がある方
(なお本の性質上、多分に「オヤジホイホイ」な内容を含みます。若年者の場合には、年長者の昔話を併用すると、より楽しめるはずです)

なお、まったく偶然ではありますが、講談社からはもう1冊、2月20日に本が出ます。
朝日新聞・Beにて掲載中の「てくの生活入門」が、ブルーバックスの一冊としてまとまります。
こちらは連載の書籍化で、私の執筆分は一部だけですが。

双方のさらなる詳細・書影・アマゾンへのリンクなどは、発売日が近くなりましたら掲載いたします。

購入をご検討いただけると幸いです。

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2008.02.01

失われた7年

1月28日、ちょっとショックなニュースがありました。

マック用アプリケーションベンダーの老舗、エルゴソフトが、パッケージソフトビジネスを終了する、というものです。 その結果、ワープロソフトの「egword」、日本語IM「egbridge」が世の中から消えることとなります。

これは、私にとって実に悲しい出来事です。
なにしろ、毎日仕事に使っているツールがなくなるのですから。
私は、普段の原稿執筆に、マックではegword、ウィンドウズでは一太郎を使っています。
校正支援機能では不満が残るものの、egword Universal2 のレイアウトの美しさは、快適に作業をする上で、非常にありがたいものです。

ただし、エルゴソフトの撤退は、私にとって意外なものではありませんでした。
5年くらい前から、アプリケーションソフトを取材するたびに、「アプリケーション・ソフトというビジネスは厳しい」という実感を、ひしひしと感じていたからです。
過去5年間に、ゲームとセキュリティ対策ソフトをのぞくと、何本アプリケーションをお買いになったでしょうか? ほとんど買った記憶がない……という人も少なくないはずです。
これは、マックに限った話ではありません。

2007年以降、パソコン業界では「失われた7年」という言葉を耳にすることが多くなりました。
パソコンの売り上げが落ち、アプリケーションの売り上げが落ち、パソコン関連媒体の売り上げも落ちる。
「パソコンが普及して普通の道具になったから」「機能が十分備わったから」などと言われますが、本当にそうなのでしょうか?
ウェブなどの通信周りは大きく変化したものの、文書やデータの作成・管理という部分は、1990年代後半から、驚くほど変化がありません。
各メーカー(特にマイクロソフト)が、変化と呼ぶに足るものを提供していないから、という事実も否定できませんが、むしろ原因は、我々の意識にもあるのではないか、と思っています。
「ソフトによって、パソコンは姿を変える」という、恐ろしく基本的な事実を、忘れかけているのではないか、と。

例えばこんな事実があります。
現在、パソコン誌に掲載される事のほとんどは、「ハード」に関するものに偏っています。理由は、ソフトの力による「パソコンを使った新しいライフスタイルの提案」といった記事には、ほとんど反響がないからです。
書いている側・企画する側の能力不足・努力不足を棚に上げるつもりはありませんが、力を入れて取材しても、いまひとつ響きません。 (例外は、OSの新バージョンに関する記事くらいでしょうか)
その結果、「文書作成のあり方を考える特集をしましょう。ワープロソフトによる適切なユーザーの種別とか、今後のワープロに望まれる機能とかを探りましょう」と企画をもちかけても、「ハード以外は、よほどじゃないと……。そもそもワープロって、なにか変化がありますか? 必要ですか?」という返事が帰ってくるだけ、になってしまったわけです。

1990年代前半は違いました。パソコン誌にはソフトの記事があふれ、アプリケーション市場も活況といってよかったでしょう。

なぜこんなに変わってしまったのか?
これは、友人であるライターの斎藤幾郎氏とのディスカッションで生まれた結論なのですが、 「アプリケーション・ソフトがコンテンツとみなされなくなったから」 ではないか、と思うわけです。

インターネットが普及するまで、パソコンは「文房具」でした。
パソコンを楽しむとは「良い文房具を選ぶ」ようなものであり、そこで鍵を握っていたのは、アプリケーションだったわけです。 パソコンにとってメインのコンテンツが、「アプリケーションを選び、使う」ことであった、といってもいいでしょう。

インターネットが普及すると、パソコンは「通信機器」になります。
最大のコンテンツはウェブそのものであり、パソコンを楽しむためにアプリケーションを選ぶ必然性は薄れました。
特に、仕事などのために「パソコンを使わざるを得ない」人々にとって、アプリケーションは「とにかく覚えねば仕事にならないもの」でしかなかったわけです。
とすれば、アプリケーションを買い換えて「ちょっと便利になる」ことに対し、新しい操作方法を覚えたり、ソフト代を払ったりといった「コスト」を払うのは、割に合わない、と感じることになります。
でも、「新しいパソコン」や「周辺機器」というモノを買うことには興味がある。 だからこそ、パソコン誌はハードの情報しか載らない媒体へと変わっていったわけです。

「そんなことない。私はソフトが好きだ」と思った方。
あなたは奇特な方です。昔ながらのパソコン好きに近い。 2000年以降、圧倒的に増えたパソコンユーザーのほとんどは、「興味があるとすればハード」という、新しい層の人々なのです。残念ながら。
(余談ですが、このあたりの事情は、もう一つのパーソナル・コンピュータであるケータイにも通じます。新サービスやバンドルアプリケーションがどうであろうと、ユーザーの興味のほとんどは、ハードの出来に集まります。それに対し、スマートフォンや海外製ケータイは、ハードよりもソフト側にその本質があるため、古くからのPCユーザーに人気があるわけです。)

パソコンが普及していくには、こういった考え方が必要だったのでしょう。
しかし、現在、その副作用は深刻なものとなっています。
ソフトの進化による変化が伴わない場合、パソコンというハードは「均質化」という流れから逃れにくくなります。 となると、速度やバッテリー持続時間などの面で不満を感じない限り、パソコンを買い換えたり、買い足したりする必要もなくなります。 ソフトの力もさらに弱くなる。
「ケータイでいいんじゃない?」という層に、パソコンを買ってもらうこともできなくなります。

「失われた7年」とは、こういった現象を指したものなのです。
エルゴソフトの廃業は、「失われた7年」の結果だといえるでしょう。
では、7年で失われたものをとりかえすにはどうすればいいか? 各メーカーの中では、検討が始められています。 「失われた7年」の原因に、マイクロソフトの功罪があるのは間違いありません。ですから、マイクロソフト自身も「なにをすべきか」「どうすべきか」を考えはじめています。

このような流れで考えると、「初音ミク」という現象が、ネットユーザーとオタク層に限られたムーブメントであるとはいえ、いかに驚くべきものであったか、ご理解いただけるのではないかと思います。

ワープロなどのプロダクション・ツールでなにをやるべきか? 答えはなかなか出ないだろうと思いますが、注目していきたいと考えています。個人的な予想としては、すでに単体アプリケーションとしては厳しく、ネット上のサービスなどと連携する形での進化しかないのではないか、とも思っています。

みなさん、久しぶりに、ワープロソフトなどの公式ページをきちんと読んでみませんか? もしかすると、自分が不満に思っていたことが解決されているかも知れませんよ。

(といいますか、媒体関係者の方々、「ワープロの未来を考える」という企画、買ってくれませんかね?)

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