2008.05.29

論点は思ったより単純なんではないか

ダビング10を巡る議論が大変なことになっていますが……。
一応私も意見を述べておこうかと思います。

と、その前に、ちょっと日常の話を。

職業柄という部分もあるのですが、私は本が好きです。フィクションもノンフィクションも、雑誌も学術書もマンガも洋書も写真集も、分け隔てなく愛しています。出版不況で活字はなかなか読んでもらえない事情がありますが、とはいえ、私のレベルの「本好き」は、そんなに珍しい存在ではないでしょう。ひとたび本屋に入ると、「とりあえず一山」という感覚で本を買ってしまいます。

そういうことを続けていると、習慣的に「断る」ことがでてきます。
それは、「書籍カバーと袋をもらわない」ことです。そんなにエコを意識した行動ではないですが、ついていると整理が大変ですし、やっぱりゴミも増える。で、レジでは「袋とカバー、いいです」と答え、鞄に本を詰め込むことになるわけです。

ところが数年前から、レジで「袋とカバー、いいです」と言うと、店員の方に妙な顔、もっといえば「イヤな顔」をされることが増えてきました。
「そんなに変なことかい?」と思っていたわけですが、ある日、その理由がわかりました。

どうしても欲しい本が見つからず、ある新古書店に行きました。なんとか見つけ出し、レジでいつものごとく、「袋とカバー、いいです」と答えます。
するとその店の店員は、驚くようなことを言い出したのです。
「では、出口までついていっていいですか」

理由は、万引き(いや、「窃盗」ですね)との混同防止です。

いうまでもなく、この店員の処置はとても失礼なものです。お金を払った直後のお客を「窃盗犯であろう」と見なす行為なのですから。あきれつつ、袋に入れてもらって店を出たわけですが、その瞬間、怒りはまた別の発想・感情にかわりました。
そこまで店員が言う、ということは、それだけその店で「書籍の窃盗」が多い、ということなのでしょう。
また、多くの店で袋やカバーをつけようとするのも、窃盗との混同を防ぐ目的があったわけです。

いくつかの書店では、最近、袋やカバーを断ると「では、店内ではレシートをお持ちください」と断るようになっています。そういった書店はたいてい、大型かつ構造が複雑で、「会計後に店内に長く滞留される」可能性のある店舗です。これも、決して気持ちのいいものではありませんが、前出の新古書店よりはるかにマシな対応といえます。

これらのことを聞いても、書店に怒りや理不尽さを感じる人はあまりいないでしょう。
理由は、「書籍の窃盗」による被害が、書店に対し大きな痛手であり、深刻な問題であることを知っているからです。

さて、ここで話はダビング10に戻ります。
どうやら、家電メーカー・コンテンツホルダー・ユーザーの間で、かなり感情的なしこりができつつあるようです。
(先日、ある家電メーカーの人物と雑談中も、「ダビング10がチャラになったら、開発にかかった数千万円、誰が保証してくれるんでしょうね」と愚痴をこぼされました)

結局問題は、「強い著作権保護や保証金を導入せねばならないほど、コンテンツホルダーは損失を被っているのか」が理解できない、という点にあるのでしょう。ユーザー側からはもちろん、メーカー側からも、コンテンツホルダー側とそういった状況に関し、十全なコミュニケーションが出来ているとは思えません。
これは前出の書店の例でいえば、「書籍の窃盗」の被害額を知らない状態で、件の新古書店とおなじような対処をされている、という状況になります。
無論、DRMなどないほうがいいに決まっています。
ですが、「本当に被害が深刻」なのならば、我々が受ける利益の分、制約を課せられてもしょうがないでしょう。
それがなく、「まず規制ありき」「民は之に由らしむべし之を知らしむべからず」では、納得できるはずがありません。

きちんと説得する。説得できないなら制約を課さない。

結局論点はこれだけなのです。
もちろん、「制約」が、レシートや袋をもらう程度の「軽いもの」であってほしいのは、いうまでもありません。EPNは、その状況に近い現実解だったのですけれど。

「私的複製」「録画」がコンテンツに与える影響については、また別の側面もあるのですが、ちょっと長くなりそうなので、また次の機会(まあ、数日以内)に。

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ご無沙汰です&告知

ちょっとご無沙汰です。
今回は本を執筆していた……というわけではないのですが、少々多忙にて更新が滞ってしまいました。
(とはいうものの、次作のプロジェクトはスタートしました。内容をお伝えできるのはずいぶん先になると思いますが)

おかげさまで、拙著「美学vs.実利」の販売は好調なようです。皆様のご愛顧に感謝いたします。
blogからアフィリエイトを通じご購入いただいた方も、予想以上にいらっしゃいました。
そこからの収入で、ありがたく「ヘアスプレー」BD版を査収させていただきました。
(逆にいえば、その程度の売り上げとご理解ください。元々アフィリエイトにはまったく熱心でないサイトなのですが、今後も、本文中で採り上げるのは基本的に自分の著作のみとする予定です)

「書店でみつからない」とのお声もあるようですが、申し訳ありません。素直にアマゾンなどのオンライン書店でお買いいただくか、注文いただくのが良いと思います。
そこそこの冊数を刷っていただいているのですが、全国の書店に行き渡るほどではないのです。現在の出版業界の状況では、「ベストセラー以外は、大多数の書店には並ばない」ものなのです。残念ながら。

また、告知が遅れましたが、5月よりASCII.jpにて「西田 宗千佳のBeyond the Mobile」という連載を開始しました。AV Wacthの連載が「ほぼ取材、時々レビュー」だとすれば、こちらは「ほぼレビュー、時々取材」なものになるかと思います。ご一読ください。

基本的に隔週での掲載で、すでに2回分の掲載を終えています。ちなみに次回は、上のリンクの写真にも写っている、アレです。

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2008.03.31

リモコンとボタン数

デジタル家電、特にデジタルテレビとビデオレコーダーに寄せられる苦情の中でもメジャーなものの一つが、「ボタンの数が多すぎる」という点です。
ユーザー調査を兼ね、家族や知人などの中でもデジタルモノに強くない人をピックアップして話を聞くと、ほぼ100%、この不満を口にします。

ですが、私は取材の中で、複数のメーカーの家電開発者から、次のような、意外なコメントを耳にしています。
「デジタル家電のリモコンにボタンが増える」原因は、ユーザーからの「わかりにくい」というクレームにあった、と。
ボタンで操作というと、なんとなくマニアックな印象をうけますが、リモコンのボタンを減らすな、とクレームをつけた人の多くはマニアではなく、むしろライトな人々。年齢層も比較的高めで、40代以上であったといいます。理由は「メニュー構造だとわかりにくい」からです。

家電をデジタル化することと、リモコンのボタンが増えることは、本来ダイレクトにつながっていません。それどころか、むしろ逆に減らすことができます。各種機能をメニュー内に配置したり、「モード」によってボタンの機能を変化させたりすることで、機能とボタンを「1対1対応」させる必然性がなくなるからです。
番組選択はもちろん、早送りや巻き戻しといったことも、すべて「十字キー」と「決定キー」の組み合わせで操作可能となります。 すべてを十字キーで操作するわけにはいかなくとも、VHS時代よりもボタンをシンプル化できるのではないか、と彼らも期待したわけです。

ところが、反応は彼らの予想とは大きく異なっていました。
「メニューをたどるのはわかりにくい。機能はボタンに割り当てて欲しい」とのクレームが寄せられたのです。

十字キーでメニューを操作する、ということは、機能がどこにあり、どう操作すればいいかを理解する必要がある、ということです。その大半は単純なものではありますが、それを受け入れられない人も少なくありません。
おそらく、このblogを読んでいるレベルの方には信じられないことでしょうが、DVDを再生して映像でなくDVDメニューが表示されると、「どこを押せば再生できるかわからない」と思う人もいるのです。実は、私の父もそうなのですが。

そういった人々の場合、「メニュー」というもの、そのものが苦手であるようです。たとえリモコンにボタンが増えようと、番組表なら「番組表」、再生なら「再生」、放送切り替えなら「放送切り替え」と、名前のついたボタンを押す方が分かりやすかったのです。だから彼らは、「リモコンにボタンを増やせ」とクレームを入れたわけです。

しかし、ユーザーは「メニュー苦手派」だけではありません。ボタンが多いことに違和感を感じる人が多いのは、冒頭で述べたとおりです。
というわけでメーカー側は、多くの人が不要なボタンをフタやスライドで「隠す」ようにして、クレームを避けるようなデザインを目指したわけです。それが必ずしもうまくいっていないのは、みなさんもご存じの通りです。

と、そんな中で、読んだのが以下の2つの記事。
こどものもうそうblog ソニー銀行「人生通帳」、「ゲーム感覚」とはどういうことか

キャズムを超えろ! Wiiテレビの友チャンネルが家電業界に与えたメガ・ショックとは 

どちらも、「メニューによる操作」によるリモコンUIの改善について、非常に示唆に富んだ内容です。

ここで、私が体験した一つの例を示しましょう。
主人公は、私の父です。
すでに述べたように、彼は「メニュー」が苦手です。携帯やパソコンでメールは打てるのに、DVDのメニューやデジタル家電のメニューは「ピンとこない。よくわからない」と言います。どうやら、「ここを押せばこうなる」と決まっているUIはOKでも、ソフトによって「似ているが違うようなメニュー」が出てくるものはイヤだ、という発想であるようです。
そんな彼に、ある機器を見せた時のことです。
「面白い。わかる。これなら使いたい」
彼の口から出たのは、完全な「賛辞」の声でした。
彼に渡して使わせた機器とは、iPhoneです。
ご存じのように、iPhoneはほとんどボタンがなく、操作を究極まで「仮想化」した機器です。ですが彼は、普通の単純なメニューはダメなのに、iPhoneは理解できた。非常に奇妙なことに思えます。
これはあくまで私の予想ですが、なにも「ゆびをすべらせるとスクロール」とか、「広げると拡大」といったジェスチャーに起因するものではないんだろうな、と思います。おそらくは、一つ一つの動作がシンプルな上に、「操作と動作が1対1で対応」していて、「これをやるとどうなるか」が予想しやすいからではないでしょうか。このあたりは、「Wii Sports」が多くの人に受け入れられた理由の本質にも通じるのではないか、と考えています。
同じように「動作」で操作するゲームでも、「はじめてのWii」はさほど理解しやすかったわけではないようですし、iPhoneの操作のうち「再生中のアルバムの中からのぞみの1曲を呼び出す」という行為は、画面の長押し>曲リスト呼び出しという動作がピンとこなかったらしく、かなり戸惑っていました。
しかも、iPhoneやWii Sportsの操作感は、さわっていても「楽しい」。前出のblog記事にもありますが、「さわると楽しそうだ」ということは、操作に対する拒否感を減らす上で、非常に重要なこととなります。

以前、ソニーでXMBを開発チームに話を聞いた時、次のようなキーワードが出てきました。
「UIは、『釣り』と『漁』のバランス」と。
魚を捕るなら、釣りよりも網などを使った「漁」の方が効率的。でも、それだけでは楽しくない。「釣り」は漁と同じことを目的としていながらも、効率より「楽しさ」を重視したものといえます。となると、コンシューマ機器のUIは、効率と楽しさのバランスをとることが重要になるわけです。
(そういう風に考えると、現行のBDレコーダーで採用されている動作の遅いXMBは「釣り」不足で、魅力が足りませんね)

UI開発には、多くの人が想像する以上のコストがかかります。各社の製品を見る限り、まだ数社しか「UIに投資する価値」に気づいていないように見えるのは、少々寂しいことです。

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2008.03.17

「美学vs.実利」 追補版 その1

拙著美学vs.実利 「チーム久夛良木」対任天堂の総力戦15年史が発売されて、3週間ほどが経過しました。
現在のところ、おおむね好評なようで、ほっと胸をなで下ろしているところです。
(ご期待に添えなかった方々、申し訳ありません。中には反論したいと思うコメントもありますが、ライターは「世に出したもの」で語るのが本道。ご批判には今後の執筆物でお答えしたいと思います。)

さて、これから時々、「美学vs.実利」の追補コンテンツを公開していこうと思います。
あれだけの長さの書籍ですが、それでも構想段階で「ネタだし」したすべてのエピソードが詰め込まれているわけではありません。脇道と思えるエピソードや、技術的な説明が大量に必要な割に他のエピソードとのつながりが悪い話題、事実に近いと「想像」「分析」はできるが、確たる事実や明確なコメントが存在しない事象などは、全体を見た上でカットしています。
(といいますか、一般的な雑誌記事などの場合、「取材したネタの8割を捨てて熟成する」のがこの仕事です)

ですが、そのまま捨ててしまうには惜しい話があるのもまた事実。
そこで、削ったネタのいくつかを、ここで公開したと思います。既読の方には追補情報として、未読の方には「これよりもっと面白い情報があるよ」という広告として、ご参考にしていただければ、と思います。
(宣伝必死だな、って? そりゃあ必死ですよ。本人ですもの)

追補版その1として、PS2向けのネットワーク・サービスが企画されていた時期の話題をお伝えしましょう。6年近く前の話ですが、現在の「ネット配信とディスク流通」に関する命題を考える上で、非常に示唆に富んだ話題となっています。

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 PS BBに向けての準備は、実はPS2開発の初期段階から存在した。そのため、SCEが作ったPS2以降のハードウエアには、ある工夫がなされていた。それは、「DNAS」と呼ばれるものだ。

 販売されたすべてのPS2・PSP・PS3には、一台づつ、固有のID番号が割り振られている。また同様に、PS2・PSP・PS3向けのゲームディスクには、1枚づつ、やはり固有のIDが書き込まれている。これをマッチングする仕組みが「DNAS」である。

 ネットワークにおいては、つながれた機器やユーザーを認証することが大きなテーマとなる。パソコンなどではIDとパスワードを使って個人を識別するのが一般的だが、コンシューマ機器では、より厳格かつ簡単なものが必要とされる。

 そこで久夛良木たちが考えたのが、出荷するすべての機器とディスクにそれぞれ別々のIDを割り当て、ネットワーク上でそれぞれをひもづけることで認証に使う、というアイデアである。世に出たのはPS BBが発表されて後のことであるが、その特質上、PS2開発段階で仕込んでおかなければならないのはいうまでもない。

 DNASは、PS2・PSP・PS3向けのオンラインゲームにて、不正コピーされたディスクや不正改造されたハードウエアを排除するために現在も使われているが、その狙いはもうすこし広いものであった。

 PS BBはその計画の中で、ゲームのオンライン配信を狙っていた。だが他方で、ビジネスプラン構築の段階で、「オンライン配信の難しさ」も明らかになっていた。

 それは、高度なブロードバンドネットワークも、「混雑」にはきわめて弱い、ということである。

 PS BBが公開された2001年は、日本においてブロードバンドサービスが花開いた時期である。月額固定・最大速度数Mbpsという、2000年までとは速度で2桁上・料金でも半額という「破壊的」サービスではあったが、ことそれを支える「基幹回線」の整備は、それほど進んでいなかった。当時の基幹線は最速でも数Gbps。数千人が一度に制限速度いっぱいを使い切るようなデータのダウンロードを始めると、簡単にパンクしてしまう。

 また、PS.comのパンクが示したように、ちょっと利用者が集中すると、サーバーとルーターの処理能力は簡単に限界を超え、正常に処理が行えなくなる。このことは、ブロードバンド回線の設計が始まった当初から予想されていた。そのためNTTグループとソフトバンクは、それぞれネットワークを「地域単位」で整備、データを地域単位で共有し、ネットワーク全体での負荷上昇を抑える、といった仕組みを用意していた。

「回線の方はまだいいんです。通信会社が一生懸命投資したものの、まだアプリケーション(用途)がなくて余裕が大きい。しかし、サーバーの側はそうではないからね」

 久夛良木はそう話した。

 そこで彼らが考えていたのは、「ダウンロードに頼らず、データをディスクで配布する」という手段だ。

 一見矛盾するようだが、彼らが考えていたのはこういうことである。

 例えば、ゲーム雑誌などの付録として、「オンラインで配信する予定のゲーム」が数十本入ったディスクを配る。その中のゲームをプレイする場合には、PS BBに組み込まれたハードディスクへゲームをコピーした上で、PS2とディスクのID(すなわちDNASの仕組み)を使い、「オンライン認証と決済」を行ってプレイさせるわけである。

「現在の物流の力というのは、ものすごいものがある。大多数の人が欲しい、と思うものを同時に届けるなら、当面光ディスクを使うのが現実的ですよ。その上で、ネット認証と組み合わせれば、双方の良さを生かすことができる」

 ディスクをあくまで「配布メディア」ととらえ、プレイする段階では「ハードディスクでも光ディスクでもかまわない」とする発想は、iPod以降の音楽業界に似た形といえる。

「着うた」や「iTunes Store」などのオンライン配信が脚光を浴びる音楽業界だが、ビジネスの主体はいまだCDという物理メディアの販売である。だが現在、普段聞いているのがCDそのものである、という人は減っている。パソコンでデータ化し、iPodなどの「デジタル音楽プレイヤー」で聞く方が便利だからだ。これは、CDが「音楽を再生する媒体」から、「音楽データを消費者に届ける媒体」に変化した、ということでもある。

 CDにとって不幸であったのは、「違法コピーの手段」と「データ化する手段」が同じであった、ということだ。CDには違法コピーを防止する仕組みがなかった。何度かCDに違法コピー防止の仕組みを設け、データ化と共存することがトライされたが、ユーザーの利便性をそぐ形でしか実装できなかったことにより、結局消費者の支持を得ることができなかった。

 その反省からか、次世代光ディスクであるブルーレイ・ディスクでは、ポータブルデバイス向けの映像データを、元の映像とは別に収録して正当にコピーする「マネージドコピー」という仕組みが導入された。またアップルは、20世紀FOXと共同で、映画のDVD内にiPod向け映像を収録、ネット認証を経てコピーを許諾する「iTunes Digital Copy」をビジネス化している。

 PS BBとDNASで久夛良木達が狙っていたのは、これらのように、ゲームでも光ディスクを「再生媒体」から「供給するための中間媒体」にすることだったのだろう。

 久夛良木はネットの可能性に魅了されていたものの、過大評価はしていなかった。筆者の見るところ、ネットの「物流手段としての有用性」よりも、「時間・距離を超えて即応性のあるコミュニケーションが可能である」ことを重視していたようだ。

「光ファイバーのいいところはたくさんのデータを転送できることだけじゃない。上りと下りの速度が同じで、相互にリッチな情報がやりとりできることが重要です。100Mbps同士じゃないと成立しないようなサービスができれば」

 PS BBが発表された後、久夛良木は筆者にこのように説明した。ゲームは「リアルタイム性」を最大限に生かした娯楽である。ネットワークに関しても同じような理想を追求したい、と久夛良木は考えていたようだ。

 PS BBが発表される1年半前である2000年8月、SCEは、NTTドコモと提携、PS1向けの「携帯電話接続ケーブル」と「iモードブラウザ」、そしていくつかの対応ゲームを発表している。当時の携帯電話は、通信速度が9600bpsと遅く、ブロードバンドとは縁遠い印象がある。だが久夛良木達にとっては、これが「ブロードバンドにつながる布石」でもあった。

「iモードとつないだのは、これが即応性が高く『常時接続』に近いサービスだから。アナログモデムでは、『つなげば即ネット』という形が実現できない」

 当時久夛良木はそのように説明していた。またこの提携では、iモードを介してゲームのサービス料金を課金する、といった仕組みも検討されており、「敷居の低いネットワーク」としてiモードを活用しようとしていた節が見える。

 だが結論からいえば、これらの施策はほとんど実を結ばなかった。それにふさわしいビジネスモデルを構築し、具体的なサービスを打ち出すことができなかったからだ。SCEとしての本格的なサービスは、PS3と同時にスタートする「Playstation Network」(PSN)まで棚上げされることになる。その間にマイクロソフトは、ゲーム機向けネットワークサービスとしてはきわめて先進的な「Xbox Live」を構築、ユーザーの心をつかむことに成功する。

 構想の先進性とは裏腹にビジネスの開始が行えない、という「方針の不徹底」こそが、PS2時代から続くSCEの、最大の問題点といえるだろう。

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2008.02.22

HD DVD終息で思うこと

本日、拙著美学vs.実利 「チーム久夛良木」対任天堂の総力戦15年史が発売になりました。
本日は多忙で、書店などを確認してはいないのですが、おそらくもう並んでいるのではないか、と思います。
ご一読いただけるとありがたいです。(以上、宣伝モードでした)

さて、今週といえばやはり、東芝のHD DVD「終息」宣言でしょう。
先週末にNHKが報道したことから一気に浮上したように見えますが、実際にはそういうわけではありません。
私が知る限りでも、2月頭あたりには「それを思わせる動き」があった、というのが実情です。

撤退に際し感じるのは、「これで東芝のプレイヤー・レコーダー事業が終わってしまうのはあまりにもったいない」ということです。
これは多くの人に共通する印象でしょう。
あるBD陣営関係者から、次のような言葉を聞いたことがあります。
「そりゃあ、開発思想や技術のあり方では、同意できない部分は多々ありますよ。でも、彼らの気持ちは理解できます。強い思い入れがあって商品作りをしている、という意味では、我々と同じですからね。でも、違う人々もいる。映画や映像が好きでもないのに、勝手なことは言わないで欲しい、と思いますよ」
敵は敵を知る、ではありませんが、現場の人は敵であっても、「現場の思いや苦労」を理解できる、ということでしょう。

そして、「終戦後になにがくるか」は、AV Watchの連載で書かせていただいたわけですが、ちょっとだけここで補足をさせていただきたいと思います。

BDがDVDを超える成功を収められるか? それは正直わかりません。
しかし一つだけいえるのは、「画質的にDVDで十分」というのは、ちょっと早計だろうということです。
SACDがCDを超えられなかったのは、「普通の人が持っている環境では明確な差を打ち出せなかった」から。MP3やAACがCDを超えたのは、「似た音質で遙かに高いユーザービリティをもっていたから」です。(このあたりはみなさん同意されることでしょう)
しかし、DVDとBDの間には、SACDとCD以上の差があります。私はその差が、VHSとLD、LDとDVDより大きなものだと考えています。
アナログ放送が終焉に向かうにつれ、ハイビジョン・テレビ一般的なものになります。そうなれば、ハイビジョン映像の「本当の美しさ・見やすさ」が浸透し、「どうせ買うなら、借りるならBDを」という流れになるだろうと考えられるわけです。

ただし、これは「映像の主たる消費場所がリビングである」という前提に立った場合です。モバイルや自分の部屋での映像消費、すなわち「SD画質で良く、むしろ手軽なことが必要」である場合は、ネット配信やディスクからのマネージド・コピーがメインになるだろうと想定できます。
もし、モバイル系視聴が爆発的に普及するなら、短期的にでも「ディスクからネットへ」の流れが一般的になるでしょう・

とはいうものの、それはちょっと想定しづらいです。
「ながら」が基本である音楽に対し、映像はやはりある程度集中して観るものですから、やはり主たる消費場所はリビングであり続けるでしょう。

これは記事でも書きましたが、「ネット配信がディスクと対立する」と考えるのは違うのではないかな、と思うのです。

むしろ対立があるとすれば、DRMや課金方式にありそうです。
しかもそれは、ディスクメディア以上に機器や使用シーンを縛るでしょう。そうなってしまうと、ディスクの分裂どころではない「イライラ」をユーザーに強いる可能性が高いのが問題です。
アップルが「南風戦略」で勝ったことに学んでくれればいいのですけれど。

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2008.02.16

表記ミスにもほどがある

海外出張に行った時の楽しみは、向こうで売られている映像ソフトを買ってくること。
特に、Blu-ray/HD DVDの世代となってからは、米国と日本のリージョンコードが同じになり、メインの機材で気軽に視聴できるようになったのがありがたいです。

というわけで、今年の1月にも、Blu-rayのソフトを一山ほど買ってきました。

実は今回に関しては、狙っていたソフトがありました。
それは、「ブレードランナー アルティメット・コレクターズ・エディション」です。
ワーナーは、日本でブレードランナーのBD/HD DVD版の発売を予定していたのですが、発売が延期されており、いまだに予定が公表されていません。
ところが米国版はすでに発売済み。
しかも、同梱のファイナルカット版には日本語字幕が入っている!

というわけで、ライター仲間にも、このソフトの購入を「ミッション」と言い切る人も少なくありませんでした。
私も、某店でまずブレードランナーを手に取り、それから、日本未発売のソフトを中心に、めぼしいものを探しはじめました。

と、そこで、目についたソフトが一つ。

それは、「プリズン・ブレイク シーズン1」のBlu-ray版です。
ご存じ大ヒットドラマシリーズですが、日本で発売されているのはDVDのみで、Blu-ray版の話はまったく出ていません。

ふと手にとって、裏面を確認すると思わず心拍数が上がってしまうような表記が!

Pb_back「Audio: Japanese」
なんと、日本語吹き替えも入っている、と書いてあるではありませんか! 同様に日本語字幕の存在も書いてあります。

実は私、吹き替え洋画/ドラマには目がありません。
(だから、テレ東放映の映画はデフォルト予約、です)
プリズン・ブレイクはDVDですでに視聴済みでしたが、吹き替えの出来の良さは記憶に残るものでした。 特に、若本”ティーバッグ”規夫氏の怪演は有名なところでしょう。

値段も、88ドル強。 こりゃあ買わないわけにはいかない! すでに数枚抱えていたディスクに加え、レジに向かったわけです。

……というのが1ヶ月近く前の話。

先日、やっと時間ができたのでプリズン・ブレイクを見よう! とパッケージのシュリンクをとき、BDプレーヤーに入れたのですが……。

あれ?

メニューを見ても、音声のリストに「Japanese」はありません。 もちろん、字幕の方にも。

あわててネットで調べて見ると、なんと米国版プリズン・ブレイクは、発売直前になって日本語音声/字幕の収録が中止になった、とあるではないですか。

おいおい、ならパッケージに記載しないでよorz
まあ、プリズン・ブレイク(特にシーズン1)は好きなドラマなので、それがHD画質で手に入ったことそのものはいいのですが、やっぱりがっくり。
日本ではあり得ないパッケージングのミス、ということで……。

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ご予約多謝いたします

美学vs.実利 「チーム久夛良木」対任天堂の総力戦15年史、予約開始告知以降、好調に予約が集まっているようです。

本ブログ上で告知をした段階では、セールスランキングは確か2万位くらいじゃなかったかと思うのですが、現在は40位台から60位台くらいで推移しています。
講談社側の担当者曰く、書評を含む詳細な書誌情報が公開されていない状態での成績としては異例なものであるようで。

どうやら、いくつかのゲーム系有力ブログでご紹介いただいた結果のようです。紹介していただき、誠にありがとうございます>各位

そしてなにより、ご予約いただいた皆様に感謝、感謝でございます。

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2008.02.14

告知 その2

先日出版物の告知をさせていただきましたが、amazon.co.jpでの予約が始まり、当方にも最終の書影データが届きましたので、ここで公開させていただきます。
(以下のリンクはamazon.co.jpへ飛びます。書名はアフィリエイトあり、書影側はアフェリエイトなしです。バンドがCDを手売りするようなものだと思い、アフィリエイトありをクリックいただけると幸いです)

書名:美学vs.実利 「チーム久夛良木」対任天堂の総力戦15年史
発売元:講談社
定価:本体1800円(税別、2008年2月現在は税込みの場合1890円)
2008年2月21日刊行予定
(amazonの書誌情報では22日発売、となっていますが、講談社側からの当方への情報では21日ですので、そちらを表記させていただきます)


発売されましたら、是非購入をご検討ください。

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「学ぶ事を学ぶ」−OLPCについて

ちょっと前の話になりますが、今年のCESの話を。

今回もっとも興味深かったのは、ビル・ゲイツのラスト・キーノートでも、「ワーナーショック」でもありません。おそらく、日本のメディアは一つも採り上げていない、あるキーノートの内容でした。

そのキーノートの主は、ニコラス・ネグロポンテ氏。

「100ドルPC」と言われる、「One Laptop Per Child」(OLPC)計画の中心人物です。

Eee PCのヒットもあり、低価格PCが脚光を浴びていますが、OLPCとそれらの製品は、狙いが大きく違います。OLPCは、発展途上国の教育水準を上げるためのプロジェクトであり、低価格モバイルガジェットの開発計画ではありません。

(このあたりの詳細については、PCFan誌にて掲載中の連載・「デジモノ語り」の、3/1号[2/15発売]記事にてご説明させていただいています。ご興味があればご一読ください。)

ネグロポンテ氏は、コンピュータを子供たちに与えたい、と考える理由を、 「学ぶことを学ぶため」 と語りました。

その件に関する彼のスピーチが、私に大きな衝撃を与えたわけですが、ここではその中の一節をご紹介しましょう。

ーーーここから

円をコンパスで描く作業と、コンピュータでプログラミングして描く作業。

どちらが学習のためには有用だと思われますか?

答えは、「コンピュータで描く」方です。

コンピュータで描かせるには、「円を描く」という行為がどのようなものか、正確に理解している必要があります。道具の使い方を覚える以上の、論理的な理解が必要なわけです。

それに、もう一つ重要なのは、「最初は正常に動かないだろう」ということです。

きっと、円が半分しか描かれなかったり、途中で実行が止まってしまったりするでしょう。 正常に動くようにするには、プログラムを先頭からたどり、どこに間違いがあったのかを見つけ出す必要があります。この課程で子供たちは、「円を描く」ということが、本当はどういうことなのか、を理解することになるわけです。

それに、正しいスペルを学ぶにも有効です。タイプミスをしたら、動きませんからね。……スペリングは、私もいまだによく間違うんですが。(苦笑)

私たちは、子供たちにグーグル(の検索)を与えたいわけでも、MSオフィスを渡したいわけでもないんです。それらはビジネスなどでは有用ですが、決して教育用、というわけではない。

単に「ネット検索」を与えるのではなく、自分で「学ぶ」環境を用意してあげたいのです。

ーーーここまで

この一節に、私はうなってしまいました。コンピュータと教育に関する本質的な問題が含まれているからです。

ネグロポンテ氏の言う「プログラムで円を描く」というのは、おそらくLOGOのようなプログラミング言語を使うことを想定したもので、BASICのCIRCLE文で一発、という話ではありません。すなわち、「中心から一定距離を保った点の集合」という、円の本質的な定義を理解する、ということに通じています。プログラミングを通じて学ばせたいのは、コンピュータの使い方ではなく「論理的な思考」だからです。

少し前、私は某大手IT企業の採用担当の方を重点的に取材したことがあります。

そこで必ずキーワードとなったのが、「論理的な思考能力」の有無でした。

「大学でITを学んだ人でなくとも、論理的思考能力があれば、戦力としてさほど問題はありません。しかし、ITを学んだ人であっても、それが出来ているとは言い難い」

ある担当者はそう話します。 論理的思考能力を身につけることの難しさは、ちまたに「論理的思考能力」に関するノウハウ本があふれている点からもおわかりでしょう。

他方、教育の現場では現在、コンピュータの授業を行う際にも、専門的な授業でない限り、プログラミングに関する授業はほとんど行われていません。パソコンを利用する上で必須の技術ではないためです。
実際問題、プログラミングを教えたとしても、そこから「論理的思考能力」を学べるようなカリキュラムを作るのは簡単ではないでしょうし。

といったところで、我が身のことに思い至ります。

私は、ちょうど小学校・中学校時代に「マイコンブーム」をくぐり抜けた世代で、小学校時代からプログラミングをしていました。

といっても、まともなソフトを作るようになったのは高校になってからで、小学校の頃は、雑誌に載ったゲームのプログラムを、ゲームやりたさに片っ端から入力する、という感じでしたが。

当時は「西部労働レストラン(save、load、list、runしか使わない人)」などという蔑称があったわけですが、考えてみれば、これも論理的思考の育成には役だっていたのかも知れません。なにしろ一発で動くことなど皆無で、ゲームを楽しむ時間より、デバッグしている時間の方が遙かに長いという代物でしたから。ゲームを買ってもらうのも難しかったですから、プログラムを入力することは、論理的思考能力を身につけるための、実にいい「ニンジン」だったわけです。

私が小学校からパソコンを使っていたことを知っている人は、「IT系のライターになったのもその辺が関係を? やっぱり長く使っていると蓄積が……」といいます。

ですが、私はいつも「あんまり関係ないですよ」と答えてきました。なにしろ、当時のコンピュータと今のIT事情は、天と地ほど違うわけで、蓄積にもならないわけですから。

ですが、このようなエピソードをふまえて考えると、小さい頃に「マイコンブーム」があったことは、あながち意味のないことではなかったかも知れません。

ライターは、取材にも記事執筆にも「論理的思考能力」が必要とされます。仕事をする上でこのような思考法は非常に役に立っています。それを身につける上で、「ゲームやりたさ」がプラスになっていたとすれば、非常に面白いな、と感じます。

ここで時代を今に移します。

現在の小中学生は、おそらくほとんどの場合「プログラミング」などしないでしょう。

これだけ優秀なゲームがあふれていれば、子供が出来る程度のプログラミングでできるゲームは「ニンジン」にならないでしょうし。

彼らに、「論理的思考能力の成果のおもしろさ」を伝える、よい「ニンジン」があればいいのですけれど。もしかするとHTMLでのウェブ構築などが、プログラミングに代わる「論理的思考能力の育成」に役立っているのかも知れません。

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2008.02.07

告知

先日ご連絡いたしましたように、書籍の出版を予定しております。
本日、めでたく(ついに!)校了いたしましたので、書名および内容を公表いたします。

書名:美学vs.実利 「チーム久夛良木」対任天堂の総力戦15年史
(書名のリンクはamazon.co.jpへのリンクです)
発売元:講談社
定価:本体1800円(税別)
2008年2月21日刊行

書名の通り、SCEと久夛良木健氏の15年を総括する本です。
SCEのヨイショ本でもなければ、アンチ本でもありません。
これまでの取材から得た様々なエピソードを通し、「プレイステーションというビジネスはなんだったのか」をまとめたものです。
すでに記事にした内容も含まれていますが、それ以外にも、これまでみなさんが他の記事などで目にしたことのない、(おそらく)初出のエピソードが大量に含まれています。
おそらく、ゲーム業界からでは書けなかった内容でしょうし、自分で言うのもなんですが、他の人には書けない内容になっていると思います。
技術系書籍ではなく、完全な一般ビジネス書として書いておりますので、技術に詳しくない人でも十分に読んでいただけるはずです。
ゲーム業界に興味がある方だけでなく、以下のような方々にお勧めします。

・デジタル家電の現状を知りたい方
・ソニーの内情に興味がある方
・コンピュータ史に興味がある方
・日本の家電業界のあり方に興味がある方
・マスプロダクツのモノ作りに興味がある方
(なお本の性質上、多分に「オヤジホイホイ」な内容を含みます。若年者の場合には、年長者の昔話を併用すると、より楽しめるはずです)

なお、まったく偶然ではありますが、講談社からはもう1冊、2月20日に本が出ます。
朝日新聞・Beにて掲載中の「てくの生活入門」が、ブルーバックスの一冊としてまとまります。
こちらは連載の書籍化で、私の執筆分は一部だけですが。

双方のさらなる詳細・書影・アマゾンへのリンクなどは、発売日が近くなりましたら掲載いたします。

購入をご検討いただけると幸いです。

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